---血管性痴呆にならないためにも注意が必要---
---日本人男性2500万人が対象となるきわめて強い遺伝的危険因子---
要約
日本医科大学老人病研究所生化学部門(太田成男教授)と国立長寿医療センター疫学研究部門(下方浩史研究部長)の共同研究によって、脳梗塞のなりやすさに大きく影響する遺伝子が発見された。アルコール脱水素酵素2(ADH2)遺伝子の個人差によって、アルコールを酸化してアセトアルデヒドに変化させる酵素活性が低い人が日本人では40%もいる。このADH2活性の低い男性は脳梗塞に2倍以上なりやすいことがわかった。小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)は血管性痴呆の原因でもあり、この遺伝子型の人は、血圧やコレステロール値に注意して脳梗塞を予防する必要がある。また、この研究結果ではアルコール飲量はADH2の脳梗塞のなりやすさに影響をおよぼさないことも明らかにされた。
愛知県住民の2200人(男性1102人)のMRIを測定し、215人(男性136人)に脳梗塞があることを見いだした。脳梗塞のある人、ない人を含めて2267人(男性1139人)のADH2遺伝子の個人差を解析し、男性の脳梗塞のなりやすさの遺伝的原因を明らかにした。米国神経学アカデミー会誌「Neurology(ニューロロジー)の10月号に研究結果を発表する。
(注)アルコール脱水素(ADH)はアルコールを酸化して毒性のあるアセトアルデヒドに変える。さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きによって毒性のない酢酸に変える。「お酒に強い・弱い」を決定するのは、ADHではなくALDHである。むしろ、ADH活性が弱いほど神経を麻痺させるアルコールの状態が長く続くので、ほろ酔い気分が長く続き、飲酒量は多くなる傾向にある。
A.脳梗塞について
脳の動脈血管がつまってしまう病気の総称。
脳梗塞は、死因の8%程度。寝たきりの原因の一位。
脳梗塞の診断:今回はMRIにより脳の血管のつまり具合を診断。
ラクナ梗塞とは?:細い動脈血管がつまっておこる直径15mm以下の比較的小さい範囲の梗塞。脳梗塞の一種。特に日本人の血管性痴呆の原因としてラクナ梗塞が多い。
B.調査対象者
愛知県の住民。住民台帳から無作為抽出して対象者となることを依頼。十分説明して同意がえられた人を対象。
40歳代約600人(男女約300人ずつ)50歳代約600人(同)60歳代約600人(同)70歳代約600人(同)年齢分布も均等になるよう配慮。合計2267人。もっともダイアスがかからない中立な人間集団といえる。脳ドックでは特に脳梗塞を心配する人が受診したり、経済的な要因が加わるので、中立な集団ではなくなる。
今回の調査ではMRIをうけた人は、2200人(男性1102人)で、脳梗塞が見られた人は215例(男性136人)であった。
C.ADH(アルコール脱水素酵素)遺伝子について
アルコール脱水素酵素にはADH1とADH2とADH3の3種類の遺伝子がある。
(1)ADH1には個人差がなく、人種差もない。
(2)ADH2では日本人に個人差があり、個人差(多型)によってADH2*1とADH2*2がある。
(3)ADH3では白人に個人差があるが、日本人には個人差がない。
D.ADH2遺伝子について
(1) ADH2*1:白人に多い多型
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